40歳を目前に会社を辞め、一生懸命生きることをやめた韓国人著者のエッセイ『あやうく一生懸命生きるところだった』が売れに売れている。韓国では25万部のベストセラーとなり、今年1月には邦訳版も刊行され、こちらもすでに7万部突破と絶好調だ。日本でも「心が軽くなった」「救われた」「共感だらけの内容」と共感・絶賛の声が相次いでいる。
天狼院書店で書店員として働き、ライターとしても活躍する川代紗生さんも、本書で心が軽くなった読者の一人だという。川代さんは、本書をどのように読んだのか? 全3回の記事を通じて、本書について語っていただいた。
生きるのが苦しかった頃の自分に渡したい本
川代紗生(Kawashiro Saki)
書店出身のライター
東京都生まれの27歳。全国7店舗に拡大中の次世代型書店『天狼院書店』本部担当。大学時代からWEB天狼院書店で連載中のブログ「川代ノート」が人気を得る。天狼院書店スタッフとして働く傍ら、ライターとしても活動中。メディア出演:雑誌『Hanako』・雑誌『日経おとなのOFF』ほか。2017年1月、福岡天狼院店長時代にNHK Eテレ『人生デザインU-29』に、「書店店長・ライター」の主人公として出演。
死にたい、と思う日が続いていた。ちょうど今から一年前くらいの話だ。
仕事で結果が出せない自分に悩み、夜は毎日のように泣き、いつになったらこの苦しい日々から解放されるのかわからなくて、占いに依存するほどだった。毎回1万円近いお金を払って占いに行き、いつになったら幸せになれますかと占い師に迫る。その答えを聞いて一瞬は安心する。でも結局しばらくすると、もう何もかもダメだという気持ちになってくる。そんな負のループにはまりこんでいた。
原因は自分の甘さにあることは自覚していた。会社が悪いわけじゃない。仕事の内容が悪いわけでもない。「会社は悪くない、むしろいい会社だ」という事実が、より一層、自分を追い込んだ。私の能力不足を真っ正面から突きつけられた気がしたからだ。
自分は誰の役にも立てていない、この場から逃げてしまいたい。でも逃げたところで、ほかに自分を受け入れてくれる場所なんてあるのだろうか。
そんな葛藤を何度も繰り返し、死にたい、消えてしまいたい、と思う瞬間が徐々に増えていったのだ。結局この苦しみから抜け出すのには1年くらいかかってしまった。
もしもタイムスリップして、あの頃の自分に出会えるのだとしたら、どうしても渡したいと思う本が、今、私の手元にある。この本にもっと早く出合っていれば、もう少し早く答えを出せたんじゃないかと思う。
『あやうく一生懸命生きるところだった』という本だ。水色の表紙の、少しざらりとした紙質のカバーが心地よいその本は、韓国でベストセラーになったエッセイの翻訳版である。
韓国では25万部も売れたというので、どんなに面白いんだろうと期待してページをめくりはじめたのだが、最後まで読んだとき、私は「はあ」と大きくため息をついてしまった。
「面白い」とかではない。何か、この本に一番ふさわしい言葉を選ぶとするならば、「刺さる」を私は選ぶ。
言葉の一つ一つが、胸の奥にぐさりと刺さって抜けないのだ。そして刺さったその言葉たちが、私が明るい方向へ向かえるように、つき動かそうとしてくれている。そんな感覚があった。
苦しみから救ってくれるのは「家族」や「友人」とは限らない
「日々、何かに追われ、張り詰めていた心が和らぐのを感じました」
「今まで何かと人と比べて、悩んでいた私の人生を、この本はそんなことで苦しまなくていい。あなたらしく生きれば、それでいいと、今の自分を肯定してくれたように思えました」
この本からは、読者からの絶賛の声が多く届いているらしい。
それも納得だと思った。本当に苦しいとき、どん底から救い出してくれるのは、必ずしも他者との繋がりとは限らない。つい友人や恋人、家族に助けを求めてしまいたくなるけれど、案外一番響く言葉を届けてくれるのは、一度も会ったことがない誰かが書いた文章の、ほんの数行だったりする。
たとえば私は高校生の頃、友人関係に悩んでいた。喧嘩をしてばかりで、学校になんか行きたくないと思いながら毎日通っていた。親にも相談したし、他の友人にも相談したが、その苦しみから解放されることはなかった。
けれども、そのときたまたま出合った小説を読んだら、すっと気持ちが楽になったのだ。そんな経験は、一度や二度ではない。
私は書店員として6年近く働いてきたが、これまで本との出合いで励まされたり、悩みが解決したりする人を何人と見てきた。もちろん、私自身もそうだった。
「この気持ちをわかってくれる人なんてこの世にいるはずがない」と思うほどの苦しみであっても、それを言語化し、紙の媒体を通して分かち合うことができる。それが本の素晴らしさだと思う。
書店員として出合ってきた数々の本のなかでも、この『あやうく一生懸命生きるところだった』は別格だと感じている。心の中に浸透していき、読者を強くゆさぶる本というのは、そう簡単に見つかるものではない。
私は、27歳という若さで、この本に出合えたのはとてもラッキーだと感じている。きっと苦しみの沼の底で、毎日泣きながら過ごしている人もいると思う。私はそんな人にこそ、この本を読んでもらいたい。「誰も理解してくれない」とひとりぼっちで夜も眠れずに過ごしている、1年前の私のような誰かに。
もしもこの記事を読んでこの本を手に取り、ちょっとでも生きるのが楽しみになったなら。少しでも多くの人にこの本を届けられるのなら。それこそ、書店員冥利に尽きるといえる。
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June 08, 2020 at 01:40AM
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「死にたい」と思っていた書店員の私が、人生に病んでいた頃の自分に読ませたい一冊 - ダイヤモンド・オンライン
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