石橋貴明が文化人、ミュージシャン、タレント、アスリートなどジャンルを問わず“話してみたい”ゲストを迎え、焚き火の前でじっくり語り合うフジテレビ『石橋、薪を焚べる』。
6月9日(火)の放送は、ゲストに特定非営利活動法人ジャパンハートの最高顧問であり、海外で無償の医療活動を続けている小児外科医・吉岡秀人氏が登場し、自身が医師になった理由や、無報酬で医療を続ける意味、医者を辞めたくなる時などを語った。
最初から発展途上国で働くつもりで医者を目指した
昭和40年(1965年)生まれの吉岡氏は、子供のころに見た光景に医師を目指したきっかけがあったと回顧する。
吉岡:ちょうど戦後から20年くらい。新大阪駅の隣に吹田駅というのがあるんですけど、地下道があって。僕が子供のころ、物乞いの人たちがいっぱい座ってたんですよ。ござを敷いて缶を置いて。手足がみんななくて。
石橋:傷痍(しょうい)軍人の人たち。
吉岡:はい、まだ戦争を引きずっている人たちがいて。でもその時、同じ街で、アジアのお祭り、大阪万博があったんですよ。世界中からたくさんの人が来てお祭りをやっている。同じ街の駅の前には、そうやって戦争を引きずっている人たちがいて。
僕が生まれる20年前、大阪には毎日のように爆弾が降っていた。僕が、今こうやって幸運でいられるのはただの偶然だなと、中学校のころだったと思うんですけど、そう思ったんです。時間とか空間のわずかなずれというか。
それで、ただ僕が今幸せで生きていられるんだなと思った時に、20年前の日本人たち、病気のある人たちにのために、「何かしないといけないんじゃないかな」という気がしたんですよね。
そして10代の終わりころに「医者になったら何かできるんじゃないか」と、当時文系だったにも関わらず「いきなり医学部に行こうと決心した」のだそう。
石橋:すごい。僕なんてバカタレだから、自分のことしか考えなくて。「自分が楽しくなるにはどうすればいいんだろう」とかそういうことしか考えないで。なぜそのような真面目なちゃんとした青年に…?
吉岡:(笑)。いやいや、僕もちゃんとした青年じゃなかったし、勉強もしていなかったんですけど、たぶんこういうのってパズルみたいなものだと思うんですよ。僕も、石橋さんが言われたように、自分の好きなことをやっただけなんですよ。
例えば、僕が小さい時に見ていた、途上国の、あるいは餓死する人の、戦争に巻き込まれた子供たちの映像って、みんな見ているんですよ。その人たちは、その映像を見て僕と同じように「気の毒だな」「かわいそうだな」と思う。だけど僕と同じ行動をとらない。そこにどんな違いがあるんだろう、と考え続けたんですよ。
結果、そこには真面目だとか、真面目じゃないとかでは全然なくて、ただ、自分の個性に在るものを10代の時に感じ取って、そこへ自然と向かって行ったということです。
自分の「個性」が医者に向いていた、それを感じ取ったと話す吉岡氏に、石橋は感心しきり。
30歳、たった一人でミャンマーで医療を始める
石橋:実際初めて(ミャンマーに)行かれた時は、何歳くらいだったんですか?
吉岡:30歳ですね。
石橋:30歳。たった一人だったんですね。
吉岡:そうですね。実は、僕に「ミャンマーで医療をやってほしい」と言ってきた人たちがいて。戦争で亡くなった日本人の家族の人たちなんですよ。慰霊団の人たちです。その人たちが、戦後50年目に「あの国で人を助けてくれないか、子供たちを助けてくれないか」ということだったんですね。1995年頃って、ミャンマーは平均寿命が50歳くらいだったんです。
石橋:50歳。
吉岡:日本の戦前くらい(の平均寿命)です。5歳くらいまでの子供がバタバタ死んでいるような状態が、あの国で起こっていると。だから平均寿命がどっと落ちるんですけど。
慰霊団の人たちは毎年現地に行っていて、そのたびに死んでいく子供を見たり、病院に行ってバタバタ死んでいるのを見るとか。
そこで彼らから、自分の家族は死んで戻ってこないけど、代わりに「同じ土地で死のうとしている現地の子供たちを助けてくれないか、それを新しい慰霊にしたいと思っています」と言われたんです。それで僕は一緒に行きまして、それで向こうに残って…。
石橋:でも、30歳で一人で。すっごい決断ですよね。だって当然(日本で)病院に(勤めていたんですよね)。
吉岡:辞めて。とにかく僕にとっては、医者になった後は「あとはいつ行くか」というタイミングだけだったんですね。
石橋:最初からの志が曲がってないんですね。
吉岡:変えなかったですね。
「目の前に起こっていること」が自分の人生。目の前の課題を突破するために何ができるか。
吉岡氏は、30歳から2年ほどミャンマーで医療活動をしたが、「超音波の機械やCTがあるわけでもない」中、詳しい病状が分からない子供たちが毎日のように亡くなっていく状況に、「これを一生見続けることは無理だ」と感じ「こういう子供たちを助けられるようになって戻ってこなければ」と、日本に帰国し「小児外科」を5年半学び直した。
石橋:小さい時に思った「いつかこういう恵まれない人たちのために医者になる」という思いで、モチベーションがずっと続いてるんですか。
吉岡:と、言えばそうなんですけど。結局、どんな生き方をしても、自分の人生って目の前にしかないじゃないですか。この「目の前に起こっていること」が自分の人生なんですよ。
遠くにはないんですね。自分が気に入らないことがあろうと、気に入ることがあろうと、心地良かろうが悪かろうが、そのことにどういう風に向き合うかだけが自分の人生だと思うんですよ。
例えば、死にそうな子供が来て、一生懸命治療する。助かることもあるし、死んでしまうこともある。結果はわからないんですよね。でも、残るのは、自分がその時どれほど悩んで、どれほど全力を尽くしてやれたか、これが積み重なって自分の人生になっているだけ。別に大きいことを考えていたわけではないんですよね。
自分の目の前に子供たちが死んでいくという課題があって、その課題を突破するために「何ができるだろう」と考えて、「どうすればいいだろう」と考えて、そうしてそれに対して向かい合っていただけだと思いますね。
助かるかもしれない可能性がある子供を自費で日本に連れてきて手術したこともあるといい「それをやらずに、そのまま医者を続けていく自信がなかった」と振り返る。
吉岡:僕がバッターだとして、ピッチャーが投げてくる球って、どんなにトレーニングしても絶対に打てない球もある。だけど、バッターボックスに立ったからには、絶対に打ちに行かないといけないんですね。僕にとって、あの子が日本に来て助かるのか死ぬのか、結果はわかりません。
そのことは僕の関心の外、と言ったら変ですけど、助かればうれしいですけど、それよりも、僕があの子に対して何ができたか、すなわちバッターボックスに立った時に打てないとわかっていても、自分で本気で振ったかどうか、なんですよ。
打ちやすい球が来て、本気で打っていないのに、適当に打ってホームランになってもぜんぜん嬉しくないんですよね。全力で振りに行って、空振りしたり、ボテボテのゴロになっても、僕はそれで仕方ないと言い聞かせて次に進むことができるんです。
自分がやっていることはもっと価値があると自分で信じていきたい
たった一人で始めた活動が、今では年間800人のボランティア医師や看護師たちが「ジャパンハート」の活動に参加していると聞き、石橋は「日本にもまだ志のある先生や看護師がいるんですね」と感嘆する。
吉岡氏は、本当は「どうしたら患者のために良い医療ができるか」からスタートするべきなのに、今の医療は「訴えられないためには」からスタートしていて、現場にゆがみが生じていると指摘。その状況に「医療従事者が疲弊している」と語った。しかし、ボランティアに参加した人の多くが「なぜ医者になったのか思い出しました」「もう一度頑張ります」と帰っていくという。
また、報酬を取らずに医療活動をしていることについても「僕は、お金はいらないというスタンスでやり続けています」とその信念を明かした。
石橋:なぜ報酬を取らないんですか?
吉岡:例えば、月に100万円の報酬を受けたとすると、僕が何をやっても僕の仕事は100万円という単位に置き換わるんですね。どんなに人を助けても、人のために頑張って成果を残しても、「100万円の仕事」ということになるんですね。
僕のやっていることは“もっと価値がある”と自分で信じていきたいんですよ。それだったらプライスレスにしておいたほうがいい、ということですね。
子供たちが死んでいく時に、本当に「もう辞めようかな」と思うんです。辞めれば人を殺さずに済むから
石橋:今は軌道に乗りつつある状態ですけど、一番辛くて心折れそうだったなって時は?
吉岡:たくさんあるんですけど、子供たちが、死んでいくんですよね。こういうのは結果責任なので、僕のせいなんです。日本と比べて医療設備がないとか人が少ないとか、電気が来ないとか、いろいろありますね。だけど、そういうことを含めて、僕は自分であそこで(医療を)始めると言って始めたんですよ。
ある時、看護師さんのミスで子供が亡くなるんですね。僕もそんなに強い人間じゃないんで「何でお前はあの時このことに気付かなかったんだ」と怒りたいんですよ。だけど、喉まで上がってきた言葉を飲み込む。なぜならば、そのことに対処できなかったり、事前に気が付かなかったのは僕だから。最後は「僕のせいだ」と言い聞かせてグッと飲み込むんです。
物が壊れたら新しいものに替えられるかもしれない。だけど人は死んで動かなくなると二度と動かないんですよ。家族が悲しむ様子を見て「もう一日早くこの症状に気付いていたら」とか「なぜあの時あの検査をしていなかったのか」とか、そういうことがしばしばなんです。
そうやって子供たちが死んでいく時に、本当に「もう辞めようかな」と思うんです。辞めれば人を殺さずに済むから。
けど、辞めてしまったら、この子が僕のせいで死んだことが無駄になる。この子が死んだから、そのあと100人の子供が助かりましたとか、この子が死んだからこの人たちが幸せになりましたとか。そういうことを僕がやらないといけないと思ったんです。
ここで辞めたら誰も殺さなくて済むけど、辞めてしまったら亡くなった子供たちが本当に無駄な死になるから、しんどくても、苦しくてもやり続けなくてはいけないと思ってやり続けてきたんです。
吉岡氏は、「同じことを二度と繰り返さないために、あらゆることをする」と誓い、それを今でも実行していると語った。
世の中に対して何かをすることは、実は、自分の人生に対してやっている
また、医者になって良かったと思う瞬間について、
吉岡:僕がいなければこの世に存在しなかった光景というか。ただ僕がやるべきことをやったという光景を、自分の人生の中でいくつも持ててきた。こういうのを豊かな人生と言うんだろうなって。それはやっててよかったことですね。
石橋:すごい、なんてすごい。何でそこまで人に対して向かっていけるんだろう?
吉岡:いつも思うのは、人間なんて自分が幸せかどうかなんて分からないんですよ。僕らは外の世界に当てて自分を理解するしか、方法がないんですね。鏡を見て自分の顔を理解するように。
僕が誰かを助けますね、「ありがとう」とか笑顔を向けてくれる。感謝したり笑顔を向けてくれる、自分はそういう人間だと理解するんです。誰かを悲しませたら、その苦しい表情や悲しんでいる姿を見て、自分はそういう人間なんだと自分の中で追い込まれていくんですね。そして、それが積み重なって自分を作っていくと思うんですよ。自分の人生というか、自己イメージを作っていくと思うんですね。
世の中に対して何かをすることは、実は、自分の人生に対してやっている。世の中の人を喜ばせることって、自分のイメージを上げている作業でしかないんですよ。そのことが分かったんで。
石橋:それいくつの時に?
吉岡:40代じゃないですか?
石橋:すげーなー!
吉岡:他人のための苦労って、自分の子供でも親のためでも長くは続かないんですよ。でも自分のための苦労だけは続くんですよね、人間って。どんな大変なことも、どんなしんどいことも、どんな嬉しいことも含めて、全部自分のためにやっているということを理解した時に、人生というものが劇的に変わっていくんだと思うんですよ。
石橋:すごい。
「自分には価値がある」と思った人間、その人間にだけ自分の人生がほほ笑む
さらに、吉岡氏は今後についても語った。
石橋:この「ジャパンハート」をもっとデカくしていくわけですか?
吉岡:東北の震災の時も、今回のコロナでも思ったんですけど、どこまでやっても終わりはないと思うんですよね。まだまだたくさん、健康が持てなくて、治療もかかれなくて死んでいく人たちが多いのであれば、その人たちがゼロになって自分たちが用無しになるまで、そこまで頑張ってやるという方向しか、僕らにはたぶん、一方向しかないんだろうなと思っています。
それは、言ったように、自分のためなんですよ。みんな「ジャパンハート」のような組織に関わることによって、何を照らしているかというと、患者を照らすことによって自分の人生を照らしているだけで。日本という国の若い人たちが下向きになっているとか落ち込んでいるとか、暗いのであれば、そういう人たちの未来が明るくなるように。
そのためには「自分という人間には価値がある」と悟らなければならないんですよ。「自分という人間に価値がある」と悟るためには、世の中に「あなたは価値があるよ」と言ってもらわないといけない。そしてそれを積み重ねて「自分には価値がある」と思った人間、その人間にだけ自分の人生がほほ笑むんだと思うんですよ。
だからそういう機会を日本の若い人たちにも作りたいと思っていますし、結果、今まで健康にならなくて本当は亡くなっていくはずの子供たちがたくさん助かっていく。それは誰も損しない仕組みであって、そういうものを作り上げていきたいなと思っています。まだまだですけど。
石橋は、吉岡氏の話に「このまんま、いろんな学校に配りたい」とうなり、「先生の話聞いて、自分は何て小さい、自分だけのことを考えている人間なんだ!という非常に背筋がすっと伸びた一日になりました。ぜひ、日本の若者のために、発展途上国の医療を受けられない子供たちのために、頑張ってください!素晴らしいお話ありがとうございました!」と締めくくった。
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June 11, 2020 at 05:09AM
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