今年の梅雨は長い。もう8月に入ろうとしているのに長い間太陽を拝んでいないような気がする。そろそろ夏が恋しくなってきた。ここまで梅雨空が長引くと今年の夏は短くなることは想像に難くない。短い夏を最高にするためにも、その相棒選びは今のうちに抜かりなくやっておきたいところ。ということで、今回は夏のアイテムとしてサンダルの話をしよう。
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僕はサンダルが大好きだ。どのくらい大好きかというと、所持するスニーカーや革靴の数より圧倒的にサンダルの方が多いくらいなのだが、サンダルはとにかく楽なのが良い。革靴みたいに蒸れないし、かかとをつぶす心配もなければ、いちいち靴紐を結ぶ手間をかける必要もない。夏場のリラックススタイルにはもちろん、少しかっちりしたスタイルに合わせれば外しにもなる。本当は始業時刻の一刻を争う平日の朝でこそ、サンダルをつっかけて家を出たいものだが、いくら夏で皆が開放的になっていてもなかなかそうはいかないのが会社勤めの悲しいところだ。
"サンダル界のロールスロイス" ユッタニューマン
セレブリティの象徴とされる車に「ロールスロイス」がある。乗用車らしからぬ高い天井に最高級のチェア、おまけに足元はふかふかの絨毯仕様になっており、その乗り心地は"走るリビングルーム"と比喩されるほど抜群らしい。残念ながら僕はそんな贅沢な車に乗った経験はないが、サンダル界のロールスロイスと呼ばれる「ユッタニューマン(JUTTA NEUMANN)」であれば、自分も手にしたことがある。

僕がユッタを知ったのは高校生の時。当時アメリカに留学をしており、ニューヨークに旅行する機会があった。その頃の僕はすでにどっぷり服にハマっており、どうせなら何か現地でしか手に入らないものが欲しいと思い、パソコンに穴が開く程ニューヨークの洒落たスポットについて調べた結果、行きついたのがユッタの工房だった。今思えば高校生にしては渋すぎるチョイスだったと思うが、中心街の外れにある小さな工房で世界のバイヤーを唸らせるサンダルが生まれていることに痺れてしまった。因みにユッタの工房はイーストビレッジというかつては麻薬取引の聖地とされたゲットーエリアにあり、その旅行は工房付近まで赴いたものの、治安の悪さに恐れおののいて退散したため目的地にたどり着けなかったというオチになっている。
結局実物を手にしたのは20歳の時で、定番モデルの「アリス」を少し捻った「エルメス」というモデルを購入した。ユッタ最大の特徴は、土踏まずを包み込むようにアーチを描いたソール。このフォルムは「オールデン(Alden)」の代名詞的な「モディファイドラスト」に通じるものがあるが、このアーチが足裏との一体感を生み、長時間履き続けても疲れを感じさせない。
エルメスと聞くと、誰もがフランスのメゾンを思い浮かべるところだが、実はギリシャ神話の中には「ヘルメス(Hermēs)」という神が存在する。ヘルメスは神話の中でも旅の神としての一面を持ち、空を自由に舞うことのできる翼の生えた黄金のサンダルを履いていたとされる。エルメスというモデル名の由来は定かではないものの、そんな神と同じ名を冠する価値は十二分にある。値段は5万円台とサンダルにしてはかなりお高いが、サンダル界の"ロールスロイス"であり"オールデン"であり、そしてその名は"エルメス"だ。革が馴染めば履き心地はまさに空を歩くようで、値打ちはあがりの一足としても間違いない。一度その高貴さにサンダルをつっかけていることをすっかり忘れ、友人とクラブに入ろうとしたことがあるが、ドレスコードに引っ掛かり門前払いになったことがある。何かと苦い思い出が多いこのサンダルだが、これからいい思い出が増えるように今年は久々に棚の奥から引っ張り出して履いてあげようと思う。
チープシックな逸品 シーサンのギョサン
冒頭でサンダル好きを表明しておいてなんだが、実はビーチサンダルの類は持っていなかった。すぐに鼻緒の部分が大破してしまったりと丈夫ではないイメージや、何となく安っぽいデザインであるという固定観念に縛られ、ビーサンにうん千円も払うことに抵抗感があった。しかし、今年になってとうとう買うに申し分ないビーサンに出合った。それが「シーサン(Seasun)」の"ギョサン"だ。

ギョサンとは何ぞや、という話だが、要するに「漁業サンダル」の略である。発祥は小笠原諸島。米軍統治当時、サンダルと言えば草履が米国風に改良されて誕生したビーチサンダルが主流であったものの、サンゴが多く滑りやすい環境であった小笠原の海で働く漁師たちが独自に改良を行い、滑りにくい合成樹脂製で鼻緒とソールを一体化させることで壊れにくく非常に機能的なサンダルへとアップデートしたものが"ギョサン"として広く普及した。その特徴と言えば鮮やかなカラーラインナップ。蛍光色やスケルトンカラー、ラメ入りなどバリエーションは幅広い。ソールと鼻緒が同素材で一体化しているので、全体がワントーンカラーなのも何ともチープながらもデザインとしてまとまりの良さがあり、機能性も高い。値段はおよそ1000~2000円程度と大分手頃で、何足も色違いで集めてしまいたくなるのが魅力だ。
そんなギョサンの中でも痒いところに手が届くデザインを展開するブランドがシーサン。草履の素材であるイグサを編み込んだような和風のテクスチャを取り入れており、カラー展開も他のギョサンにはないようなシックで落ち着いたものが多く、安っぽさを感じさせない。ギョサンのコストパフォーマンスをそのままに、より現代風にアップデートされた"チープ・シック"な逸品だ。ギョサンの機能性の高さには満足していたものの、もう少し見た目のチープさは何とかならないか、と思い悩んでいた自分にはまさにぴったりな一足で、見つけた瞬間に「これだ!」と息巻いて勢い任せに色違いで黒、カーキ、ペールピンクの3色を購入した。因みに黒は2足持っている。正直必要かはわからないが、4足買っても値段は1万円をゆうに下回る。このコストパフォーマンスの高さを前にしてあがらずにはいられないだろう。
僕が草履風のデザインを気に入ったのには大学時代を秋田で過ごしたという理由がある。雪深い秋田では草履の底に滑り止めの革と金具を縫い付けた「雪駄(せった)」と呼ばれる履物が伝統的だが、その文化は根強く、東北六魂祭の一つである「秋田竿灯まつり」で雪駄を履いて演技をする男衆の中には一年中雪駄で生活をする者も多い。その雪駄(≒草履)のデザインを踏襲するシーサンのサンダルを履いていると青春を過ごした東北のことを思い出す。今年の夏は竿灯祭りも大曲の花火大会も中止になり、僕も久々に秋田に帰ろうかと思っていたが、それも叶いそうにない。コロナ禍で長らく我慢の期間が続くが、来年こそはシーサンのサンダルを履いて秋田の夏を満喫できるように今は自粛に努めたいと思う。
■sushi(Twitter)
15歳で不登校になるものの、ファッションとの出会いで人生が変貌し社会復帰。2018年に大学を卒業後、不動産デベロッパーに入社。商業施設の開発に携わる傍、副業制度を利用し2020年よりフリーランスのファッションライターとしても活動。noteマガジン「落ちていた寿司」でも執筆活動中。
>>あがりの服と、あがる服 バックナンバー
【vol.1】シャツの極致 シャルベ / 15歳の僕を変えたマーガレット・ハウエル
【vol.2】アマンも認めるプローのバスローブ / 外着にもしたいスリーピー・ジョーンズのパジャマ
【vol.3】誇り高き迷彩のヴィンテージバブアー / 心強い鎧ビューフォート
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July 31, 2020 at 09:00AM
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