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「人生を意義深く過ごす」とは、先人から受け継いだものを次代に手渡すことではないか - 朝日新聞社

少しずつ夏が近づいてきている感じがしますね。日差しがそう感じさせます。

新型コロナウイルスの感染状況もまた動きを見せています。落ち着かない日々ですが、そんな時こそ、落ち着いて色々と普段、考えないようなことを、じっくり考えるなんていいと思います。僕はそうしています。

ということで、今回も3話書きました。一つ目は「自分探し」をするなら「自分以外のところ」から探そうというお話。自分の中から自分を探そうとしても、意外と見つからないもの。

二つ目は愛知県の友人に陶芸家のキム・ホノさんのアトリエに連れて行ってもらった時の話。普段気にしている「暑い」という生理現象も、気の持ちようでアレンジできてしまうんじゃないかな、というお話。

そしておしまいは、自分に関係のないもの、あるものってあって、その一つひとつがある部屋の風景こそが「自分」というお話。それではしばしお付き合いください。

ずっと京都でラジオ番組「LONG LIFE DESIGN RADIO」(FM京都/毎週日曜18~19時) をやっています。今年1年間の番組制作費をクラウドファンディングで呼びかけた際、大阪のプラスチック製品メーカーのサナダ精工さんからの力強い支援を頂き、先日お礼にお邪魔した時の写真です。プラスチック製品は環境に関心の湧くご時世、様々に話題になりますが、「愛される(捨てられない)プラスチックを作ろう」を合言葉に、ユニークな製品を作っていて、共感しました。長く続く(捨てずに使い続けたくなる)プラスチックというわけですね。写真左から眞田和義社長、営業部の奥絵里奈さん。商品企画の深尾こころさん。ありがとうございました!!

ずっと京都でラジオ番組「LONG LIFE DESIGN RADIO」(FM京都/毎週日曜18~19時) をやっています。今年1年間の番組制作費をクラウドファンディングで呼びかけた際、大阪のプラスチック製品メーカーのサナダ精工さんからの力強い支援を頂き、先日お礼にお邪魔した時の写真です。プラスチック製品は環境に関心の湧くご時世、様々に話題になりますが、「愛される(捨てられない)プラスチックを作ろう」を合言葉に、ユニークな製品を作っていて、共感しました。長く続く(捨てずに使い続けたくなる)プラスチックというわけですね。写真左から眞田和義社長、営業部の奥絵里奈さん。商品企画の深尾こころさん。ありがとうございました!!

受け継ぐ

私たちは必ず何かを先人から引き継ぎ、未来に残しています。それはわかりやすい伝統の世界にいる人たちだけの話ではなく、サラリーマンだって学生だって、様々な場にそれはあります。僕らは時間の中に生きているわけで、時間は何かを川の流れのように運んでいる。その隙間に私たちはいて、時間の流れとともに、何かしらのことを未来に向かって送り出している。最近なぜだか毎日、そんなことを強く思うようになりました。

きっかけはある友人がボソッとつぶやいた「最近、生きていて不安なんだ」と言う言葉でした。よくよく聞き出していくと「不安」ではなく「悶々(もんもん)とした何か」でした。どう生きたらいいかわからない、今をどう過ごせばいいか、ということでした。

実は僕も、そういう不安な気持ちを持っています。というか、みんな、そんなことを抱えていると思います。昔は今と違って、いろんなことが単純でした。例えばメディア一つとっても、かつては新聞、テレビ、雑誌、ラジオの影響力が多大でしたが、今では一人ひとりがSNSでメディアになって、細分化されている。価値観も流行もその種類が大量にある。そんな状態の中で一つ気づいたのです。「時間の流れには絶対に逆らえないけれど、とはいえ、年を重ねていく間に、年下と年上など様々な関係の中で、受け継ぎ、手渡していることが絶対にある」と。

人生を「意義深く感じ過ごす」ということ。しかし、自分の人生の中からその意義を見つけるのはとても難しく、結果、悩んで不安に陥る。そうであれば、自分の中のことばかりに固執せず、自分の外に答えを求める。

誰かが社会の中で受け継いでいる大切なことを、自分が受け取り、次の世代により良い形で渡す。自分の中のことではない「みんなで作り上げた良いこと」を、自分という人間を通じて、誰かに、次の社会に向かってはっきりと手渡していく。そしてそれは誰もの周辺にある、身近にある、と思うのです。産んでくれた母を、意識を持ってみとどけることなんかも、人生の充実の中にあるように思います。

僕らは何かを受け継いでいる。何を受け継ぐかは、自分で選べる。それを意識する日々は、とても苦しいかもしれないけれど、楽しいとも感じられると思うのです。

自分があの人よりも劣っているとか、考えがちだけれど、人生はもっとダイナミックに生きた方が楽しいし、そういうものだと思う。自分一人では到底できないことに加わり、大きな価値を未来に手渡していく。自分の人生を広い視点で考えていくと、僕ならば、やはり「デザインの魅力」を発展させていくことなんだと思います。笑われてしまうような大きな目標を立てること。それでいいと思います。たとえ、それが社会や業界や会社に評価されなかったとしても……。

東京の東側に小さな物件を借り、自分がちゃんと店頭に立つ店を準備しています。東京の真ん中に店を持った時と違って、下町であるここでは、人の気配や近所の人の様子が身近に感じられます。ちょっと大げさに言うと「町の歴史に参加する」感じがあります。賃貸物件ですが、この場所で長く商いをするぞ!!と頑張ることも「町の歴史を受け継ぐ」と言えます。開業は2020年9月を目指しています

東京の東側に小さな物件を借り、自分がちゃんと店頭に立つ店を準備しています。東京の真ん中に店を持った時と違って、下町であるここでは、人の気配や近所の人の様子が身近に感じられます。ちょっと大げさに言うと「町の歴史に参加する」感じがあります。賃貸物件ですが、この場所で長く商いをするぞ!!と頑張ることも「町の歴史を受け継ぐ」と言えます。開業は2020年9月を目指しています

暑いというのを決めるのは自分

先日訪れた陶芸家のキム・ホノさんの家では、クーラーをつけず、扇風機とうちわでした。パートナーの春実さんが、僕が汗をかいているのを察して「クーラーつけましょうか」と言うと、間髪入れずキムさんが「体が冷えるからやめよう」とニッコリ。日差しが強く、正直、蒸し暑い日でしたが、気持ちはキムさんとのおしゃべりに集中していましたので「暑い」とは感じませんでした。むしろ、少しクーラーの話になったことで「そういえば、暑いかも」と思いましたが、それも含めてキムさんの家に来ていると、思えました。

思い起こせば、自身の作品で表現をする人の創作の現場は、クーラーの涼しさがないところが多い。直接聞いたわけではないので、どういう意図かわかりませんが、察するに、クーラーは「不快な涼しさ」なのかもしれませんね。

昔、照明デザイナーの面出薫さんが、天井のダウンライト(天井埋め込み式の照明)を「あれは、ただ、眩(まぶ)しいだけ」と言ったのを思い出しました。照明なんだから、明るくて当然くらいに思っていましたが、「眩しいだけ」と聞くと、確かに「明るい」「暗い」だけでなく「眩しい」という感覚もある。そこから考えると、クーラーの涼しさにも「冷えすぎ」みたいな状況があるように、「暑い」ことを解消するためだけにやみくもにつけて冷やすのも正しくない、という視点が出てきて、少し面白かったのでした。

キムさんの家もそうでしたが、いろんな作家に共通するクーラーのない住まいは、暑くてたまらないというより、独特な暑さの居心地を感じる。人によって、そして、自分も含め「暑さ」って心の持ちようなんだなぁと、感じました。それはもちろん、キムさんと一緒にいたことにより「自分」が変わったのです。自分の価値基準を自分が変える。面白いなぁと思いました。キムさん、春実さん、ありがとう。

お昼にキム・ホノさんが料理を作ってくれました。器はもちろんご自身の作品です。ここではいろんな気づきを頂きました。その一つが今回書いた「暮らす感覚」です。普通にしていると全てが普通になってしまう。感覚を研ぎ澄ませると、暑ささえ、どこか味わいのあるものになって、汗が引いていく感じもしました。風情を感じようとする。今という時間を楽しもうとする。積極的に

お昼にキム・ホノさんが料理を作って眺めるくれました。器はもちろんご自身の作品です。ここではいろんな気づきを頂きました。その一つが今回書いた「暮らす感覚」です。普通にしていると全てが普通になってしまう。感覚を研ぎ澄ませると、暑ささえ、どこか味わいのあるものになって、汗が引いていく感じもしました。風情を感じようとする。今という時間を楽しもうとする。積極的に

自分に関係ないもの

これまで、「本」はそのときに少しでも関心があれば、読む、読まないに関係なく買っていました。そのときの感覚のピースが自宅の書棚にたまっていくことで、なんだか自分の未来予想図を作っているような感覚があったからです。要するに、読みもしない本が、ものが、どんどんたまっていくわけですが……(笑)。

それは30代全般でのことで、働き盛りの40代になると、やっとそれらを読んだりペラペラめくったり。そして50代のいま、気づくわけです。「いつか読むと思っている本は読まない」。それどころか「自分に関係ないもので、生活スペースを構成するある種の害があるのでは」とさえ思うようになり、それでも捨てられないので、なんだか雑音のように増えていく。つまり、これは「自分」で「自分」を定められないということとも言えましょう。この手の内容、メルマガには何度も書いています。僕の永遠のテーマなのでしょう。

「自分に関係のないもの」を考えるとき、「断捨離」はとてもいい行為のようにも思えてきます。いつまでたっても使わないものって、やはり、みんなが言うように「使わない」のでしょう。過去を振り返っても、昔に買って使わなかったものを後から使い始めるという経験は、確かにありません。うーん、あれ、捨てるのかぁ……(笑)。

僕はよく、人の人生をうらやんだり、嫉妬したりします。ライバルにもならない雲の上の人をライバル視して、少しでも近づけるよう、その人の世界にある、自分には関係のないはずのものを買ったりして無駄な出費をしたり……。そういう背伸びみたいなものも大切な気もしますが、そうしたことでたどり着けるところと、たどり着けないところくらいは、50歳を超えたあたりから見えてきます。

これは努力を諦めているわけではなく、自分をはっきりさせて、シンプルにしていく。自分にしかできないことを研ぎ澄ませていく。そういうことだと考えています。

前にも書きましたが、愛知県に僕が通う隠れ家的飲み屋があります。そこには大量の本が置いてあり、店の中を覗(のぞ)いていくと、1人の主人の姿が見えてきてワクワクしますし、自分も「本当に好きな」本、例えば、読破した本だけを棚に収めていくと、自分が見えてくるようにも思うのです。

「自分」って永遠にわからないかもしれません。だからこそ、楽しいのでしょうね。そして、思います。「自分」を見極め、未来に導いてあげるのも「自分」だと。

僕の会社「d」を改革しているのも、そのためだと思います。ものを販売する立場にいますので、「その人(客)に関係ないもの」を売ると、断捨離されてしまう(笑)。ものを売るということにも、そこまで踏み込んだ洞察があると、買い物も面白くなるとも思うのです。だからといって、自分が見定めたものにまっしぐらなネット検索買いは、「発見」がなくて、ちょっとつまらないですね。

お恥ずかしい限りですが、僕の東京の部屋 (自宅は静岡) の様子。自分の部屋の中のものの中で、「本当に自分が好きなもの」ってどれくらいあるのでしょうね。空間があると、その空間分だけ詰め込みたくなります。もらい物のあまり好みではないものも、置いておけます。格好をつけて買っただけで読みもしない本などなど、その集積がわかる部屋の様子。そして自分。ある意味、自分の部屋なのに、人目を気にして自分を演出しているところもあるのでしょうね

お恥ずかしい限りですが、僕の東京の部屋 (自宅は静岡) の様子。自分の部屋の中のもので、「本当に自分が好きなもの」ってどれくらいあるのでしょうね。空間があると、その空間分だけ詰め込みたくなります。もらい物のあまり好みではないものも、置いておけます。格好をつけて買っただけで読みもしない本などなど、その集積がわかる部屋の様子。そして自分。ある意味、自分の部屋なのに、人目を気にして自分を演出しているところもあるのでしょうね

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PROFILE

ナガオカケンメイ

デザイン活動家・D&DEPARTMENTディレクター
その土地に長く続くもの、ことを紹介するストア「D&DEPARTMENT」(北海道・埼玉・東京・富山・山梨・静岡・京都・鹿児島・沖縄・韓国ソウル・中国黄山)、常に47都道府県をテーマとする日本初の日本物産MUSEUM「d47MUSEUM」(渋谷ヒカリエ8F)、その土地らしさを持つ場所だけを2カ月住んで取材していく文化観光誌「d design travel」など、すでに世の中に生まれ、長く愛されているものを「デザイン」と位置づけていく活動をしています。’13年毎日デザイン賞受賞。毎週火曜夜にはメールマガジン「ナガオカケンメイのメール」www.nagaokakenmei.comを配信中。

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