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好きな“コンテンツ”こそ人生の必需品 『トクサツガガガ』が描く、特撮オタクの生き様(リアルサウンド) - Yahoo!ニュース

 オタクにとって、好きなコンテンツとは何か。一言で言うと「生活必需品」だろうか。少なくとも不要不急だからと簡単に切り捨てられるものではない。

『トクサツガガガ』最新18巻

 丹羽庭の漫画『トクサツガガガ』は特撮オタクを描いた作品だ。オタクの生態を描いた作品は近年珍しくないが、特撮オタクを描いた作品は希少だ。本作は、オタクと社会活動について、非常にユニークなアプローチをした作品だ。主人公を女性でOLの特撮オタクに設定し、ジェンダーバイアスや仕事の悩み、世代間闘争、さらには母子の確執などを描き、特撮から得た知識と想像力を生かして解決してゆく。まさに特撮が人生の必需品と化した人物が主人公なのである。

 ドイツのモニカ・グリュッタース文化相が、コロナ禍でのアーティスト支援策を表明した際「アーティストは今、生命維持に必要不可欠な存在」だと発言したことが話題になったが、本作の主人公、仲村叶にとって特撮はまさに日々の生存に不可欠なものになっているのだ。

■特撮の知恵で社会を乗り切る

「大人になった時大事なことは、全部小さいうちに(特撮から)習うでしょ」

 本作の面白さは、この第一話に出てくる主人公のセリフに集約されていると言ってよい。仲村は、仕事やプライベートの人間関係から、社会の理不尽まであらゆる問題を特撮から学んだことになぞらえて解決してゆく。

 仕事で悩む後輩や上司を特撮のストーリー展開を想像しながら励ましたり、健康保険や年金、税金などの支払いを、部隊を維持する資金繰りと想像したり、結婚式のためのドレス新調などの出費を節約すること、特撮の制作費になぞらえて上手にやりくりしたりする。

 特撮番組は基本的に子ども、とりわけ男の子のためのものだ。主人公の仲村は大人で女性。特撮ターゲットでないがゆえに、作中ではその苦しみや肩身の狭さ、そして世間一般のステレオタイプなジェンダー表象が立ちはだかる。

 1巻に収められている第7話では、ファーストフードの子供用玩具のおまけをめぐるエピソードが描かれる。男子向けの玩具を欲しがる小さな女の子が、母親に諭されて女子向けグッズをあてがわれてしまった様を見て、仲村はかつての自分を思い出し、自分用のグッズを女の子にプレゼントする。「戦えない子供の代わり、大人と互角に渡り合う。子供の味方をしてくれるのがヒーローだ」と心の中で仲村はつぶやく。子供を救う特撮ヒーローのように、仲村もまた子供を救ったのである。

■母との確執から見る世代間の価値観の違い

 本作は基本的にコミカルにエピソードを綴るが、一つだけ例外がある。それは仲村の母に関するエピソードだ。仲村の母は可愛く女の子らしいものを好み、娘が特撮好きであることを許せず、仲村は特撮好きであることを隠し続けている。幼い頃に母から好きなものを否定され、大好きな雑誌を焚き火で焼かれたことがトラウマとなっている仲村にとって、母の存在は人生最大の壁である。

 シングルマザーだった仲村の母は、家計のために自分が我慢していたことを、娘のためにと可愛いものを買い与えようとするが、それが仲村本人にとっては苦痛でしかない。家族の愛情は時に呪いとなる。本作はこのねじれた母子関係に、「母も苦労していたんだから許そう」などという安易な決着を与えない。

 自分の苦しみを、娘を支配する理由にした母に、特撮の悪役を重ねる仲村は、「自分の苦しいことが、弱い人を見捨てていい理由にも、人を苦しめていい理由にもしてはいけない」という特撮ヒーローの言葉を思い出して自身に重ねる。

 この仲村母子の確執の背景には、世代による人生観の違いがある。現代よりも男尊女卑の激しかった時代に女手一つで子供を育てた母は、女が1人で生きていくことの大変さを身を以て知っている。事あるごとに「可愛くしろ、さもないと結婚できなくなる」と娘に言う母は、本当にそうしないと生きていくのが困難な時代を過ごしてきたのだ。しかし、主人公は1人で生きていける自信を持っている。現代も、男女平等が実現されたとは言い難く、作中で描かれるようにジェンダーバイアスも残るが、それでも成年男性が女児向けのアニメを好きだったり、独身女性が特撮にハマってそれなりに楽しく生きていける時代でもある。

 仲村の周囲のオタク仲間も30過ぎで独身だ。そういう年になってもオタク活動に精を出して、楽しく生きていける時代になったのだ。そんな時代には、良い結婚相手を捕まえるため女子力を高めるよりも(本作はそうした生き方も否定してはいない)、好きなものに没頭できることの方が人生において重要になっても良いのだ。

 現代社会で、生存に必要なものは結婚よりも、愛を注げるコンテンツかもしれない。『トクサツガガガ』は、そんな現代を象徴する作品ではないだろうか。

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April 22, 2020 at 06:01AM
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