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「平凡なお母さん」なんて一人もいない。ある女性の人生を死後から遡る、話題の連作短編集が文庫化 - ダ・ヴィンチニュース

『母のあしおと』(神田茜/集英社)

「自分のこれまでの人生には、どんなドラマが詰まっているのだろう」―そう考えさせてくれる『母のあしおと』(神田茜/集英社)は、ひとりの女性の生涯を逆から順に辿っていくという、新感覚な連作短編集だ。

 主人公は北海道に住んでいた、「道子」。5人兄弟の末っ子として生まれた道子は妻、母、義母、祖母として生き、天に旅立っていった。物語は、そんな道子の死後のエピソードから幕を開ける。妻の死後を生きる夫やお葬式の時の次男、長男の婚約者など視点人物を変えて語られていく道子の人生には、様々な喜怒哀楽が詰め込まれている。

 人は生きているうちに、どん底な日を何度も経験することがある。しかし、そんな日さえも長い目で見たら、「悪くない」と思えるのかもしれないと感じさせる力が本書にはある。

 主人公である道子は万人から愛される完璧な人間ではなく、視点人物やその時の状況によっては「苦手」や「性格が合わない」と思われることもある。それは、等身大の私たちと同じだ。

 人間はロボットのように完璧にはなれないため、悪口を言われたり、大切な人の気持ちが離れたりして傷ついてしまうこともあるだろう。だが、完璧ではないからこそ、どうにか折り合いをつけようともがいたり、自分の未熟さに気づいて人生の軌道修正を図ったりできる。

 実際に、冒頭で道子の死を深く悲しみ、面影を他の誰かに重ねるほど強い愛情を見せた夫の和夫も過去には、従姉妹のフミちゃんに「道子とあまり性格が合わないのかもしれない」と不満を漏らしたことがあった。しかし、和夫はフミちゃんから言われたある言葉にハッとさせられ、自分たちの関係を築き直し、妻の死を心から悲しめるほどの愛妻家になったのだ。

 私たちは嫌なことや辛いことが起こると逃げてしまいたくなることも多い。しかし、人は完璧ではないからこそ、痛みと向き合い、幸せになろうと努力していくことだってできる。本書の登場人物たちは生前の道子とのエピソードを通して私たちに“向き合うことの大切さ”も教えてくれる。

泣いた日や痛かった日にも愛は傍にいた

 道子は誰もが羨むような、華々しい人生を送ったわけではない。私たちと同じように育児に明け暮れ、姑や夫との関係に悩み、泣き笑いしながら人生を全うした。その生涯の一瞬一瞬には幸せではない時間も確かに存在していたのに、「人生」として見てみると幸せだったのではないかと思えてしまう。

 本書内では一切、道子視点の気持ちは描かれていないが、人生の共演者たちのエピソードからは彼女がどれだけ愛されながら生き、愛しつくされながら死んでいったのかが伝わってくる。

 どんな人の人生にも、どん底な日にも愛は必ず詰まっているということを道子は自身の生涯を例に、教えてくれている。彼女が辿ってきた人生を知った読後はきっと、本書のタイトルに胸が熱くなるはずだ。

文=古川諭香

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April 17, 2020 at 04:06PM
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