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人生も、山と同じように 一歩進めることで先が見える――『淳子のてっぺん』唯川恵|本の山|KIKI - gentosha.jp

「淳子のてっぺん」というタイトルを目にして、その「淳子」が登山家・田部井淳子さんのことだと気づく人も多いだろう。日本の女性登山隊の一員として、女性で世界初のエベレスト登頂に成功したのが1975年。晩年はがんと闘いながらも、東日本大震災で被災した故郷福島の高校生千人と富士山に登るという目標を掲げて活動するなど、最後まで山に登り続けた。

本書はそんな田部井さんをモデルに、山と共に生きたひとりの女性「淳子」を描いている。三章からなり、順に「谷川岳・一ノ倉沢」「アンナプルナ」「エベレスト」と山の名前が並ぶ。

一章では、淳子が福島の三春町で生まれ育った頃のことから、山に魅せられヒマラヤの高峰を目指すようになるまで。なかでも登山を始めて、谷川岳で過ごした二十代の時間は酸っぱくも甘くも刺激的な出来事がたくさんあり、時折吹く青春の風が目にも眩しい。

以前、田部井さんにお会いした際に、谷川岳で出会ったご主人・政伸さんとの馴れ初めを伺ったことがある。政伸さんが山頂で雪をカップに入れ、缶詰のあずきを乗せた「氷あずき」を出してくれたという。田部井さんはそのやさしさに心ときめいたと話してくれ、とても印象に残った。本書でもそのエピソードが登場するけれど、一冊を読み通すと政伸さんをモデルとした夫・田名部正之が、この稀有な女性登山家にとっていかに大きい存在だったかがわかる。

二、三章では女性だけの登山隊で目指した2回のヒマラヤ遠征の話が、詳細に綴られている。結果、淳子は世界一高い山の頂を踏むことになり、それは世界中に輝かしい成功譚として知れ渡った。けれど、そこには想像を絶する困難の壁が立ちはだかった。その壁をいかに淳子たちは越えたか。男性が主導権を握っていた登山界で、あえて女性だけで向かったにもかかわらず、一番の壁は仲間が「女性であること」だったのではないかと思わせる記述には、切ない気持ちになる。わたし自身も小さな遠征隊でヒマラヤの6000メートル峰を目指したことがあるのだが、高所や登山そのものよりも仲間との関係に苦労してしまったことを思い出した。

それでも遠征を成功させることができたのは、淳子の誰よりも強い「登りたい」という気持ち。そして、日本で待つ正之の存在だろう。「てっぺんは頂上じゃない」「淳子のてっぺんは、俺のところ」だと、無事に帰ってくるようにとふたりは約束を結んでいたのだ。

どんな困難であっても、一歩一歩、歩みを進める。山と同じように人生も進むことで必ず先が見えてくる。晩年、被災した高校生を連れて富士山に向かったのは、山頂がゴールではなく、その先に大きな世界があることを伝えたかったのだろう。山を誰よりも愛した田部井さんが残した精神に、小説という物語のなかで触れることができるのが、なによりもうれしかった。

「小説幻冬」2017年11月号

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October 24, 2020 at 04:04AM
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