朝鮮戦争が1950年6月に勃発してから今年で70年。同じ民族を裂いた南北分断は今も続き、統一は夢のまた夢だ。北朝鮮で捕虜となり、半世紀を経てようやく脱北した元韓国軍兵士、故郷の北朝鮮に戻れなくなった「
◆拘束された傷は消えず…北朝鮮に約50年抑留された元韓国軍兵士
「何回も逃げたが、連れ戻された。これは、針金で拘束された傷。70年たっても消えない」。ソウル駅の近く、朝鮮戦争で北朝鮮の捕虜となった元韓国軍人を支援する市民団体の事務所で、
1953年の休戦後、国連軍は、約1万2000人の韓国軍兵士が北朝鮮の捕虜になったと発表した。「国軍捕虜」と呼ばれるこうした人々は、南北の捕虜交換で54年までに、8000人が帰還したが、残りは思想教育を受けて転向し、北朝鮮にとどまったとされた。だが90年代以降、元兵士の脱北が相次ぎ「転向でなく、抑留された」と訴える。金成泰さんもその1人だ。
32年に
50年6月25日午前4時半、北緯38度線に近い下士官学校の宿舎で就寝中、雷鳴のような衝撃で目が覚めた。北朝鮮の奇襲攻撃で朝鮮戦争が勃発した。
北朝鮮は戦車部隊を前面に猛烈な勢いで南侵した。韓国の
貨物列車に乗せられて、2日後、北朝鮮北部の収容施設に連行された。1500人の捕虜がいたが、食料は600人分しか配給されず、栄養失調で死者が続出。小部屋に40人が詰め込まれたが、着替えも入浴の機会もなく、異臭が漂った。
国連軍が同年9月の
国連軍と北朝鮮、北朝鮮への援軍を送った中国が53年7月27日、休戦協定を締結。だが、金成泰さんの帰国はかなわなかった。直前に、収容所からの逃亡を図って捕まり、「民族反逆罪」で懲役13年の判決を受けたばかりだった。刑務所では、造船などの肉体労働を強いられ、再び、受刑者仲間らの死を目撃した。刑期を満了した時には、34歳になっていた。
出所後、北朝鮮北部の炭鉱で働き、
2000年、食料難の中、唯一の肉親の長男と中朝国境の
それから20年、「南北の平和、統一」を願い続けてきたが、新聞で北朝鮮関連の記事を読むと頭が痛む。18年に
自身と同じように脱北した元捕虜が80人ほどいたが、すでに60人近くが他界した。「終戦まではまだ時間がかかるだろう。韓国が困難に陥ったら、どうか助けてほしい」。6月、韓国中部の
◆今も忘れ得ぬ故郷・北朝鮮に戻れない「失郷民」1世
「あとどれほど生きられるか。2度と故郷に行くことはできないだろう」
開戦当時は、韓国に近い
避難先では食べ物に困り、ソウルを目指した途中で武器を手にした職場の同僚に偶然、出くわした。聞けば韓国軍に入隊したという。金さんも軍に加わり、敵を捜索する部隊に配属された。直後に銃撃に遭い、太ももを負傷。退院後は韓国軍の療養所で勤務した後に部隊に復帰し、ソウル近郊で休戦の知らせを聞いた。「しばらくすれば故郷にも帰れると思った」
だが、分断は続いた。ソウルで会社員として働き、戦時中に出会った女性と結婚して1男1女をもうけた。故郷の家族とは1度だけ連絡が取れた。1992年、出張先の中国で同郷の人に出会い、手紙を託すとしばらくして兄から返信が届いた。「死なずにいて良かった。話したいことはたくさんあるが、簡単に消息を伝える。会える日を待ちながら」。そうつづられた中に、「母は昨年5月5日に亡くなった」とあった。金さんは文面を見つめ、涙を流した。
2000年の南北首脳会談を機に始まった離散家族の再会事業に申請する方法もあったが、「あれは政治ショーだ」と拒んだ。その後も南北関係は融和と緊張を繰り返し、先は見えない。「統一は難しくても、せめて自由に行き来できるようになれば。同じ民族なのに、なぜ故郷に行くこともできないのか」。金さんは深いため息をついた。
子孫と合わせると数百万人いるといわれる失郷民だが、67年に及ぶ分断で、金さんのように実際に北朝鮮にいた「1世」は年々減っている。世代は韓国で生まれ育った2世から3世、4世へと移り、北朝鮮に対する「故郷」という意識も薄れている。
教師だった父が徴兵を避けて韓国に避難してきたという2世の
3世の
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