北朝鮮に拉致された横田めぐみさん=失踪当時(13)=の父で五日に死去した横田滋さん(87)に宛て、拉致被害者の曽我ひとみさん(61)が書いた手紙の全文が、報道陣に公開された。便箋二枚に手書きでしたためられた文章の細部からは、曽我さんが横田さんに初めて出会った時の思い出や、これまでの活動に対する感謝の気持ちが伝わってくる。
六月五日二時五十七分、横田滋さんが八十七歳でお亡くなりになりました。
心よりご冥福をお祈りいたします。
第一報は拉致対策本部からでした。
とにかく信じられなくて、頭が一瞬真っ白になり何も考えられませんでした。少し落ち着いてきたら、私が帰国してからの出来事が次々と思いだされ、くやしくてくやしくて、こんなにがんばってきたのに、めぐみさんに会うことなく天国に旅立ってしまいました。
お元気な時に、もっと手紙を書けば良かったと今さらながら後悔しています。
あえて、めぐみさんのお父さんと呼ばせていただきます。
初めてお父さんとお会いしたのは羽田空港でしたね。私が二十四年ぶりに日本に帰国出来た日です。
「曽我さん、お帰りなさい」とやさしく声を掛けてくれました。
めぐみさんの事を思い泣きながらカメラのシャッターを押していた姿は、今でも深く印象に残っています。
お父さんは、とてもやさしく、いつも私と会うと「めぐみと一緒にいてくれてありがとう。何か思い出したら、聞かせてくださいね」と笑顔で話されていました。
家族会初代会長として、発足以来二十年、めぐみさんを探し続けて四十年以上、活動を続けられ、どんなに大変だったでしょう。
私にはほんの少ししか分かりません。
でも一つはっきり分かる事があります。
それは、私の人生を救ってくれた事です。心から感謝をしてもしきれません。
なのに、私は、何の恩返しも、できませんでした。
めぐみさんに会わせてあげたかった。
たくさん、たくさん話をさせてあげたかった。
しかし、それも今は、かなわなくなりました。
今の心境を表すなら、悔しい、悲しい、心が痛い、さまざまな思いが頭の中をぐるぐる駆け回っています。
今世間は、コロナ一色に染まっている事から今年は何の活動も出来ていませんが、この痛恨を力にかえて、お父さんの分まで活動を続け、一日も早い解決に向かってガンバリマス。お父さんも天国で応援してください。ゆっくり休んでください。
令和二年六月六日 曽我ひとみ
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