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女の人生は長いから|ヘイケイ日記~女たちのカウントダウン|花房観音 - gentosha.jp


この連載をはじめたのは、50歳が近づき、閉経の兆候を感じながら、気持ちや身体の変化をリアルタイムで書きたいと思っていたのが一番の動機だ。閉経し、自身の性欲や性への興味がどうなってしまうのだろうとは、数年前からずっと考えていた。

もうひとつ、主に性愛をテーマにして書いている私が、性欲や性への興味を失うと、書くものは変わるのかというのも重要な問題だった。

みんな卒業してるのか

同世代の周りの女性は、なんとなく「セックスは卒業しました」と言う人が多い。もちろん、「性欲強くなって、やりまくっている」「恋をしてセックスも楽しんでいる」人でも、正直には口にしないというのも承知しているので、本当のところ、閉経後の性生活については、人それぞれなのだろうとしか言えない。

週刊誌には、「60歳からのセックス」や、勃起薬の広告など、男向けの「死ぬまで現役」推奨する記事がたくさん載っているけれど、それらの対象は、同世代の女ではなくて「若い女」だったりする。一方の老いた女の性欲は、どうすればいいのかというのも、書いておきたかった。

90歳が描く色情狂

瀬戸内寂聴「爛」を読んだのは、今から7年前、私が40を少し過ぎた頃だ。小説家となり一番忙しい時期で、性を描くことに悩みもし、嫌なことも多かったので、性愛を書くのを止めようと考えもしていた。

 

だいたい、40を超えた私が、セックスセックスといつまでも言ってるのもどうなの? そろそろ卒業しないとな、なんて思っていた頃に、「爛」を読んで、度肝を抜かれた。

帯には、「最期まで爛々と輝くオンナの生と性を91歳の円熟の筆で描く芳醇な物語」とある。自身を「色情狂」と自嘲する、離婚したあとセックスを求めて男の間を転々として生き、79歳で自死した女の人生を、彼女の友人であった83歳の人形作家が探りながら、自身の性愛の記憶も呼び覚ましていく話だ。

文中、私が強烈な印象を受けたのは、このセリフだ。

「精液は男の命だ。女が精液を欲しがるのは、もっと貪欲に男の命を吸い尽くしても、自分の生命を生きのびようという下心があるからだ」

この本が出版されたのは、帯にある通り、瀬戸内寂聴さんが91歳のときだ。

書かれたのは、80代後半から90歳にかけてと考えても、こんな台詞が生み出されることに驚愕した。

どこまで貪欲で、性の深淵を見てきたのか。そして、その年になっても、自身が体感した性の世界を描くことに対し、私は尊敬の念以上に、「怖い」と思った。

90歳ということは、私ならば、あと40年ある。今から40年、たとえ性欲を失っても、セックスについて考え続けるのは、すごくしんどいことに思える。

とっとと悟りを開いて、他人事のように道を誤る人たちに、自分の過去は棚に上げて「欲望に身を任して、人に迷惑をかけてはいけませんよ」と説教でもしてるほうが絶対に楽だ。

死ぬまで性の煩悩を抱え続けるなんて、しんどすぎる

閉経を迎え、性の世界を卒業したほうがいい……なんて考えてしまうほど、怖かった。

傷だらけの心が愛しい

けれど、「欄」を、今、久しぶりに読み返して、死ぬまで性を抱え、離れることができなかった深い業を持つ女たちの人生に、惹かれる自分がいた。それは結局のところ、苦しめられ、振り回されてきた性の世界を何よりも愛しているのかもしれない。

性の欲望は、道徳や善悪を超える危険なものだから抑え込まれてきた。性の欲望に従順に生きることは、決して褒められるものではない。人を傷つけ、自分も傷つく。長生きするほどに、傷は癒されるどころか、数が増えていくだけだ。

けれどその傷だらけの心が、ときに切なくて愛おしい。

小説「花芯」は、寂聴さんが36際のときに出版されたものだが、「きみという女は、からだじゅうのホックが外れている感じだ」「皮膚までが、貞操感覚を欠如している」そんな女が、夫以外の男に恋をし別れ、身体の欲するままに多くの男と関係を持つ話だ。

この小説は、当時、ポルノ小説と叩かれ、批評家から「子宮作家」と呼ばれ、寂聴さんが文壇を干されたきっかけになったといわれている。

男のファンタジーを超えた、自身の欲望を持つ女は、貞淑な妻か淫乱な娼婦しか知らない男たちに、恐怖を感じさせたのではないだろうか。男にとって都合のよくない女だから、恐れられ、批判されたのではないか。

「花芯」のラストは、女が自分の肉体が焼かれる様を想い、死んでからも、この欲望は残るのではないかと連想させる。

死ぬまで女、どころじゃない。

死んでも女。

男を欲しがる女。

底なしの欲望を持つ女。

そこまでの深い欲望を持つ女は、どれほど孤独なのだろう。過剰な性の欲望を抱きながら生きるのは、満たされぬまま求め続けることだ。だから性の世界を描くと、孤独がつき纏う。

女の人生は長い

平均寿命を考えると、閉経してから女の人生は、気が遠くなるほど長い。

ときどき、面倒な性の欲望から卒業したい思うけれど、死ぬまで、いや、死んでからも、色と欲に振り回された生涯だと、後世の人に指さされるような人生も面白いのではと考えている。

(引きこもり生活が続くので、
週に何度かテイクアウトを利用しています)
(近所の花)

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April 30, 2020 at 04:05AM
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